締結 機械要素技術 コラム

“ばね座金“って本当にゆるみ止めの効果あるの?

みなさん、"座金(ざがね)"はご存じですよね?ボルトと座面の間に挟まれる薄いドーナッツ状の金属板のことです。"ワッシャ"という呼び名の方が馴染み深いかもしれませんね。一口に"座金"といっても、用途によって様々な種類があります。今回、記事でテーマにするのは"ばね座金"と呼ばれる座金です。このばね座金は、主にボルトのゆるみ止め用途で広く使用されているものですが・・・

実はゆるみ止めとしての効果はないんじゃないか?

なんて疑われたりしています。

本記事では、そんなばね座金の効果の真偽について考察していきたいと思います。

ばね座金って意味あるの? 

私の職場で、ばね座金のボルトのゆるみ止め効果について色々と議論がありました。その議論が面白かったので、下記のようなツイートをしてネット上の技術者にも問いかけてみました。

色々と情報やご意見をいただきありがとうございました。この手の議論はいつも盛り上がるので、非常に面白いですね。本ツイートに対する意見も満場一致とはいかないものの、大方の見方は一致していました。結論から言えば

ばね座金にゆるみ止めの効果は期待できない

と言えるでしょう。

そもそも"ばね座金"って何なんだ?という人のために、サラッと概要だけ説明します。

画像引用:MISUMI-VONA

ばね座金はスプリングワッシャとも呼ばれ、通常の座金の一部が切り欠かれていて、更にねじられたような複雑な形をした座金です。その名の通り、ばねの一部を切り取ったような形をしています。ボルト締結面にばね座金を挟むことで、ボルトの締付力にプラスして、ばね座金が元の形に戻ろうとする弾性力がプラスされます。この弾性力によって、ボルトが緩みにくくなるという部品です。また、ばね座金の切り欠きの部分が着座面に食い込むことで、物理的に緩みを抑制する効果があるとも言われています。身近な所だと、車のナンバープレートの締結部分なんかに使われていますね。

概要だけ見ると、如何にも効果がありそうにも思えます。では、なぜゆるみ止め効果ないと言えるのでしょうか。その理由を理解するために、まずはボルト締結の原理の基礎を学びましょう!!

ボルト締結の原理

そもそもボルトやねじは、どのような原理で部品を締結をしているのでしょうか。まず、ボルトを締め付けることによって、締結対象物には圧縮力が掛かります。そして、その反作用として、ボルト自体には引張力が掛かっています。これらの力が、ボルトの座面やねじ面などの摩擦抵抗を生み出して、部品を締結することができています。ボルトの締め付けによって発生する力の事をボルトの"軸力"と呼びます。そして、この軸力こそ、ボルト締結において最も大切なことです。

では、次に"なぜボルトはゆるむのか?"について、説明します。ボルトがゆるむという現象は、何らかの原因によってボルトが生み出す圧縮力・引張力(軸力)を失うことです。ボルトのゆるみの原因は、大きく二つに分けることができます。

・回転緩み
・非回転緩み


回転緩みは、その名の通りボルトが緩む方向に回転してしまって、軸力を失ってしまうことです。具体的な原因としては、締結部分に連続的に掛かる振動や衝撃などが挙げられます。回転緩みを起こすと、完全に軸力を失い、最終的にはボルトが抜け落ちてしまいます。重大な不具合に繋がる恐ろしいゆるみなんです。ボルトのゆるみといえば、一般的にこの"回転緩み"を指します。

非回転緩みとは、ボルトは回転していないけど軸力が低下してしまう緩みの現象です。ボルトの締め込みが強すぎて座面が変形してしまったり、経年変化によりボルトが伸びてしまったりすることで発生します。高温多湿などの腐食が起きやすい環境でも起こることもあります。

ここまでのまとめをすると、ボルトのゆるみは軸力の低下が原因であり、軸力の低下を引き起こす一般的な原因は回転緩みです。そして、その回転緩みの対策として広く用いられるのが、本記事のテーマである"ばね座金"なんです。

ゆるみ止めの代表といっていも過言ではない"ばね座金"。ここまで広く使用されているのに、なぜ効果がないと言えるのか・・・その根拠を見ていきましょう。

なぜ、ばね座金は意味がないのか?

ばね座金が効果が無いと言われる最大の理由・・・それは

そういう研究結果があるから

です。これを言われてしまっては、ほぼ反論の余地はないでしょう。現在読める代表的な文献は3つです。

ばね座金の軸方向荷重増減によるゆるみ止め効果(論文)

2006年に神奈川大学が発行した論文です。この論文では、"皿ばね座金""食い違い型ばね座金"という2種類のばね座金を用いて、ゆるみ実験を行っています。皿ばね座金とは、その名の通り中心に穴の開いた皿のような形をしたばね座金です。食い違い型ばね座金というのが、上記でも説明した切り欠きの入ったばね座金です。

結論は、皿ばね座金はゆるみ止め効果は確認できたが、食い違い型ばね座金はゆるみ止め効果は確認できなかったというものです。しかも、効果がないどころか座金を使用しない時よりもゆるみが大きかったという結果も出ています。また、効果が確認できたという"皿ばね座金"についても、座金の使用による摩擦直径の増大が緩み防止に影響を及ぼしたと考えられるとのこと。つまり、ばねの効果ではなく、単純に座金として機能したに過ぎないということです。

ばね座金のゆるみ止め効果はこの実験では確認できなかったという結論です。 

三次元有限要素法によるばね座金のゆるみ挙動解析(論文)

2007年に東京大学が発行した論文です。この論文は、有限要素法を用いてばね座金のゆるみ止め効果を検証してみたというものです。実験ではなく、コンピュータを使った解析による検証ですね。結論としては、ばね座金はゆるみ止めどころかゆるみを促進する効果があり、ゆるみ防止の観点からは問題があることがわかったということです。

増補 ねじ締結概論(著書)

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ボルト締結の第一人者である工学博士 酒井智次氏の著書です。この本の中でボルトのゆるみ実験について語られているようです。上述の論文『三次元有限要素法によるばね座金のゆるみ挙動解析』の中で、この著書の引用、また著書内の実験結果と解析の比較が行われています。

ねじ締結概論の中ではゆるみ試験機を用いて、ばね座金の効果の確認を行っています。結論としては、ばね座金の有無にかかわらず、軸力低下にほとんど違いはなかったとのことです。

しかし、この実験では”軸力が低くなった際にばね座金の軸力保障の効果が表れている”と認めています。かみ砕いて説明するなら、ばね座金はボルトがかなり緩んだ段階になって、初めてちょっとだけゆるみを抑制するということです。

これだけのエビデンスがあれば、ばね座金は効果がないと言うには十分過ぎるでしょう。しかし、全く効果がないと言い切って良いかといえば、それは少し違う気もします。"増強 ねじ締結概論"の中で語られた"軸力が低くなった際にばね座金の軸力保障の効果が表れている"という部分は見逃すことはできませんよね。ここで一旦、「ばね座金は効果があるんじゃないか」と言っていた人達の意見にも耳を傾けてみましょう。

ばね座金は効果あると思うけど・・・という意見

ばね座金にゆるみ止めの効果があるのではないかと、仰っている方々の意見をまとめると下記のようになります。

・体感的にだが、緩んだ後の脱落防止としては役立っている気がする。
・プラスチックねじや小さいネジに関してはゆるみ止め効果が期待できるのではないか。
・着座面の材質が柔らかい場合には食い込みによるゆるみ止め効果がある気がする。

具体的なエビデンスこそなくても、どの方も実際にゆるみ止め効果があったという自身の経験に基づく意見となっています。これはまさに、"軸力が低くなった際にばね座金の軸力保障の効果が表れている"という『ねじ締結概論』の実験結果と一致すると思います。

ばね座金にはボルトがゆるんだ後、ボルトが脱落してしまうまでの時間を稼ぎ、ボルトのゆるみに気が付く機会を増やすくらいの効果はあると言えます。そう考えると、車のナンバープレートの締結で使われているのも、理解できますね。

また、私の個人的な推察ではありますが、軸力が小さい小径のボルトでもゆるみ止めの効果が発揮される場合があると思います。ボルトの径が大きくなれば、当然締付により発生する軸力も大きくなります。しかしその値は、ボルトの径に比例するものではなく、二次関数的に増加します。縦軸を推奨締付トルクで締めた際の軸力、横軸をボルト呼び径としてグラフを描くと下記のような関係になります。

(ちなみに、推奨締付トルクはボルトの許容応力から算出されているため、横軸を"ボルトの呼び径"から"ボルトの断面積"に置き換えると、下記のような比例の関係となります。)

一方、ばね座金により付加される軸力は、ボルトの呼び径に比例するような形に近いのではないかと思います。厳密に見れば比例ではないと思いますが、どんな形であれボルトの径と軸力の関係のグラフよりは傾きが緩くなるはずです。なんの根拠もありませんが、下記のグラフに青線でイメージを引きました。 

この赤線と青線の交点が、ゆるみ止め効果の有無の分岐点であり、青線の方が大きければ、軸力保証の効果が表れるし、赤線の方が大きければ、ゆるみ止め効果は期待できない・・という点があるのではないかと思います。繰り返し言いますが、これはあくまでも私の個人的な考察であり、根拠はありません。何が言いたいかというと、小径のボルトであれば、ばね座金がゆるみ止め効果を発揮する可能性はあるかも・・・ということです。

つまり、「ばね座金にはゆるみ止めの効果があるんだ」と言っていた方達が絶対に間違っているということではないんです。全く無意味ではなく、大なり小なり効果はある“はず“なんです。

ここで一つ、ツイートをご紹介します。 

技術士 春山先生のツイートですが、これはまさしくその通りです。そもそもばね座金の仕様は、JISで規定された寸法や硬度だけです(JIS B 1251:2001)。どのくらいの軸力を付加できるか、といった数字は全く謳われていません。

つまり、我々はどのくらいの効果があるのかを予想・計算できないものに、ゆるみ止め効果をなんとなく期待して使っているということです。もはや、ゆるみ止め効果の有無や度合いが問題なのではなく、定量的に効果を測れないものを妄信的に使っているという現状が問題なんだと感じます。

ばね座金に意味があるのか無いのかという議論が頻繁に巻き起こる原因もここに集約されます。最初から定量的な効果が謳われていれば、議論する必要も実験する必要もないわけですからね。

緩み止めの定番は?

メカトロザウルス

んじゃ、ボルトの緩みを防止するためにはどうしたらいいんだ?

という方のために、定番のゆるみ止め対策を紹介しておきます。

ノルトロックワッシャー

スウェーデンの締結機器メーカ"ノルトロック社"が開発したゆるみ止めの定番です。クサビ状のカムを利用した特徴的な形をしており、摩擦抵抗ではなく、張力を利用してゆるみを防止します。確実なゆるみ止め効果がある定番製品です。具体的な原理については、HPを見てみてくださいね。ただし、コストはそれなりに高いのであまり多用はできません。 

ケミカル系のねじロック 

ゆるみを防止したいボルトに事前に塗っておくタイプのケミカル系のゆるみ止めです。代表的なメーカとしては、スリーボンド社やロックタイト社があります。イメージとしては、ゆるめの瞬間接着剤みたいなものです。ゆるみ止め対策としては、安価でかつ効果があるため私も好んで使います。ただし、ケミカルなので直接手で触らないようにするなどの安全上の配慮や、増し締めが必要などといった通常のボルト締結と作業が異なる部分があります。取り扱うなら、その点には注意が必要ですね。 

まとめ

本記事の復習をしましょう。

・ばね座金はゆるみ止めとして用いられる締結部品
・ボルトのゆるみの原因には、回転緩みと非回転緩みがある
・ばね座金にゆるみ止めの効果は望めず、むしろゆるみを助長する
・ボルトの軸力が低い領域では、ゆるみ止めの効果を発揮する場合がある
・ゆるみ対策にはノルトロックワッシャやねじロックが有効

ばね座金が効果がないどころか、むしろゆるみを助長するというのは驚きですよね。実際、ばね座金は「ここはゆるむ可能性があるので意識してますよー」というアピールくらいにしかなっていないのでしょう。だからといって今更、使うことを止めのも難しいというか・・・抵抗がありますよね。もはや信仰に近いのかもしません。

本記事では、エビデンスとして2つの論文を紹介しました。『大学の研究によると~』なんて語られるとそれだけで信じてしまいますが、論文と聞いただけで鵜呑みにするのは禁物です。ちゃんと論文を納得するまで読むことが大切です。論文が間違っていることもあるし、そもそも怪しい論文も結構ありますからね(今回、紹介したものは信用できると思いますが)。技術的な議論に限らず、エビデンスまでしっかり目を通して、納得することを大切にしましょう。

さて繰り返しになりますが、本記事の結論としては

ばね座金にゆるみ止めの効果は期待できない。ただし、ボルトの脱落までの時間を稼いだり、軸力の小さい小径のボルトでは、若干効果を発揮する場合がある。いずれにせよ、定量的に効果を保証できないので、ゆるみ止めとして信頼して使うのは禁物。本当にゆるみ防止したい場合は、ノルトロックワッシャやねじロックなどの緩み止め対策を使おう。

ということのなります。もしも他にも面白い論文や試験結果があれば是非教えてください。最後に、本記事を書く上で参考にした記事のリンクを貼っておきます。どれも非常に勉強になるので是非読んでみてください。

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